この作品は現在、私の作品中、最も演奏の機会に恵まれているのではないでしょうか?作曲したのは1987年から88年にかけてと、私はまだ高校生で和声や対位法と言った、作曲の技術的なことに関する勉強はまだしたことがありませんでした。当時は理数系クラスに在学していて、工学部志望だったのですが、結局2年後、音楽大学に進学し、作曲の勉強を6年間して、気がついてみれば作曲当時から一回り以上年をとってしまいました。今、改めてスコアを広げてみると、確かに未熟な部分が多く、恥ずかしくもあるのですが、今の私が失いかけている物も見つけることが出来ます。例えばこの曲には、全曲を通してたった一度しか用いられることのないメロディーが数多くありますが、これは曲を構成するという面に置いてはやや散漫な印象を与える危険性があります。でも、たった一度しか現れないから印象に残る場合だってあります。
曲全体の構成についてはまだまだこれからも突き詰めていかなければならないのですが、儚さすら感じさせる数多くのエピソードを持つ「たなばた」は10代の私が現在の私に残した大切なメッセージなのかもしれません。さて、私は高校時代、吹奏楽部に所属してフルート(ピッコロ)を担当していました。新設校で楽器も少なく、コンクールは地区大会で3年連続「銅賞(失格にならない限り、参加校全てが受賞できる、いわば参加賞)」と言うレベル(^^;)でしたが、中学生まではピアノ曲や一部の室内楽曲以外の音楽にはほとんど興味がなかった私にとって、吹奏楽の響きというのは非常に新鮮に感じた物でした。
最近の吹奏楽部は共学の学校でも男子部員が少ないそうですが、私の学年はなんと女子部員よりも多い10数名の男子部員がおり、上級生や下級生も交えて練習そっちのけで、淀川の河川敷に野球などしに行っていました。おかげで、しょっちゅう女子部員から叱られていましたが、そんなことも含めて、本当に楽しい思い出がこのバンドにはあります。
3年生になり、部活から引退してしまうと、どうにも寂しくなり、そんなときにメンバーだった友人達のことを思い浮かべながら書き始めたのがこの曲です。正式にオーケストレーションを学んだ訳ではありませんでしたが、毎日、友人達が吹いている音を聴いていたわけですから、この辺りは体で感じ取っていたのでしょう。パート別にやや難易度の差がありますが、それは当時のメンバーの技量が反映されているわけなのです。それから、吹奏楽やクラシックのレパートリーに詳しい方達ならばすぐにお気づきかと思いますが、この曲は「当時演奏した」又は「憧れていた数々の作品」の影響を受けています。バーンズや、スウェアリンジェン、リード、ジェイガー、など吹奏楽では馴染みの作曲家からメンデルスゾーン、ラヴェル、ドビュッシーなどのクラシック界の大作曲家、それから当時人気のあった斎藤由貴や渡辺美里のポップス歌手まで、意図的に引用したフレーズもあれば、偶然そっくりになってしまったメロディーなど、数々の発見があると思います。それから、1年生の時にコンクールの課題曲であった真島俊夫氏の「波の見える風景」は、今でも私の大好きな曲なのですが、ジャズの手法を取り込んだハーモニーに魅せられ、スコアを随分研究して、その響きの秘密に迫ろうとした物です。例えば201〜202小節辺り、その研究の成果が現れていませんか?(笑)
そんなこんなで、本来受験勉強をしているはずの時期にこんな曲を書いていたわけで、作品が完成した頃には「卒業おめでとう」とだけしか言って貰えない状態になり(^^;)、この作品はしばらく忘れ去られることとなりました。はじめて音を出したのは、大阪音楽大学の作曲学科に進学してから、大学2年生の時です。当時、短期大学部の管楽器及び打楽器の専攻生達による吹奏楽の授業を担当されていた高橋徹先生の指揮で初演していただきました。はじめて音を出したのが5月か6月頃だったと思うのですが、正直言って感動しました。高校時代、自作のファンファーレを部員達で演奏したときにも結構感動した物ですが、やはりプロを目指して勉強している学生達の演奏、しかも大編成と言うこともあって、本当に嬉しかった物です。その後、数々の幸運にも恵まれ、この曲はオランダのDe Haske社から出版され、コンクールやコンサートなどで、多くの団体によって演奏されるようになりました。日本で譜面が発売されるようになって、7年が過ぎようとしていますが、今でも演奏され続けるというのは嬉しい物です。
ふとこの曲に魅力があるならば、それは何かな?と考えてみたことがあります。それは中間部にAlto SaxophoneとEuphoniumのデュエットがあるからじゃないかな?そんな風に思います。この二つの楽器はオーケストラでは滅多に使われることがありませんが、吹奏楽にとってはどちらも重要な楽器です。この二つの楽器がこの場面で用いられたのは、私が高校時代、一学年下のAlto Saxophoneを担当していた女の子と、Euphoniumを担当していた同級生の友人がとても仲が良く、そんな二人がほほえましくデュエットをしている姿を思い描きながら書いたからです。これが吹奏楽ならではの楽器の組み合わせになったのは、ちょっとラッキーな偶然だったかもしれません。
「たなばた」を作曲した頃の私。
箏曲部の女の子たちに囲まれて
ちょっと幸せそうです。次に、タイトルが「たなばた」になったいきさつを簡単にお話しておきましょう。以前、このページをご覧になった方ならばご存じだと思いますが、私が高校時代、密かに憧れていた演劇部の先輩が7月7日生まれだと言うことを知ったからと言うのが一番大きな理由だと思います。でも、最近になって判ったことなのですが、実は7月7日生まれだったのはその先輩の友人だったのです。
何だか一番肝心なところで思い違いをしていたわけですが、私が住んでいるところは、元々七夕とは何かと縁のある地でもあり、この日に愛着を持つようになったのは私にとって、とても自然なことでした。出版された楽譜の解説には「中間部のデュエットが織女と牽牛を表す」と書いてあって、実際のいきさつには触れていませんが、これはこれでぴったりだと思いませんか?
話がやや飛びますが、「よく、どこそこの部分はどういうイメージで演奏すればよいのですか?」と尋ねられることがあります。例えば、曲の後半で、ピッコロからフルートに半音階のパッセージが受け継がれる部分があるのですが、「ここでは流れ星をイメージされているのですか?」と尋ねられたことがあります。実際には、M.Ravelの"La Valse"で使われているパッセージに単純に影響されただけかもしれません。でも、言われてみれば、流れ星のイメージというのは本当にぴったりだと思います。
正直言って、この曲は作曲してから時間が随分経ってしまい、楽譜も市販されているわけですから、私の手を完全に放れているのです。何年か前、山形県で吹奏楽部の指導をされている中学校の先生から、ご自身の「たなばた」に寄せるイメージを頂いたのですが、本当に素敵な物語で、「この曲は、もう演奏者の物になってしまったんだな」と思いました。自分では決して気付くことはない、この曲に隠された魅力を演奏して下さる人たちが引き出してくれているのです。これは、作曲者にとって見ればとても嬉しいことです。もし、作曲する側の思い出にのみこだわった演奏であれば、それは私の知っている世界の中で完結してしまいますが、演奏する側に新しいイメージが生まれるのであれば、この曲はどんどん世界を広げてくれるわけですから!
De Haskeよりリリースされている、Jan de Haan指揮、Band of the Royal Netherlands Air Forceの演奏によるCD。
DHM2.013.3[1993年8月]最後になりますが、中高生が演奏する「たなばた」を聴いてちょっと気になることを一つ。現在、この作品が収録されているCDは、コンサートやコンクールのライブ録音も含めてて何種類かリリースされていますが、代表的な物は上記のDe Haske社からの物でしょう。このアルバムに収録されている「たなばた」はなかなか味わい深い素敵な物だと思うのですが、中間部のルバートの掛かり具合は相当な物です。これを真似ようとしてギクシャクとした感じを受けることが時々あります。このルバートは、相当音楽の経験を積んだ大人(プロ)のバンドだからこそ出来る物のような気がします。
今、久しぶりに高橋徹先生が指揮をして下さっている初演のテープを聴いていますが、中間部は楽譜のテンポの指示通り(おそらく相当速く感じるはずです)、ルバートもほとんどありませんが、私にはとても新鮮で、そして素直な演奏に感じられました。先ほどからの話の流れとは矛盾するような気がしますが、中高生にはこういう素直な演奏の方が合っているのではないでしょうか?少なくとも、先ほど紹介した同じ高校のA.Sax.とEuph.の二人のイメージには、初演の演奏の方がぴったり来ます。もっとも二人とも今は良い歳になっていると思いますが・・・(笑)色々と書いてきましたが、友人達と過ごした楽しい思い出、叶えられることのなかった淡い恋心など、とにかく私の高校時代の思い出がいっぱい詰まった曲です。それを作曲当時の私と同世代の子供達(もちろん大人も大歓迎ですよ)に演奏して貰えるというのは、本当に嬉しいことです。これからも一人でも多くの人が、この作品に出会って、何かを感じ取ってくれれば、と思っています。
First Performance & Data
Date & Place ジュニアバンドフェスティバル'91
1991年12月14日 大阪音楽大学ホールPerformer 大阪音楽大学短期大学部吹奏楽クラス 指揮:高橋徹 Duration 7分55秒(初演)